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2022.05.03
「あなたへのてがみ」②

令和4年4月17日発行の大分合同新聞にて「ひらけ!里親プロジェクト」の活動の一環として記事を掲載していただきました。

 

本作は、里親制度の実情を伝えるため、制度を活用されている方に取材を行い、実話に基づき制作した手紙の体裁の物語です。

 

 

【記事本文】

卓也へ

就職おめでとう。サッカーばかりしていた卓也が新社会人とは、月日が経つのは本当に早いものだな。心から嬉しい。

 

少しだけ昔話をさせてほしい。君はもう覚えていないかもしれない。10年前のちょうど今頃、4月にしては暑い日に初めて君と出会った。部屋には施設の職員さん2人、そして母さんと私。大人ばかりの中、君は部屋に入ってくるなり早口で挨拶をした。

 

シャイなのかなと、思った。続いて私たちも挨拶。それで、私は内心焦っていた。何を話そう?話すネタが思い浮かばない。事前に考えておけば良かったと後悔した。職員さんが何か話し出そうとしたその時、君が「プーマや」と言った。私が着ていたTシャツのことだ。

 

そこから話はとても盛り上がった。サッカーが好きなこと、休み時間にいつもボールを蹴っていること、ディフェンスが得意だけど、本当はフォワードをやりたいことなどなど。あの時のキラキラした目は、今でも思い出すことができる。

 

中学の試合の時に骨折してしまい、つけていたギプスは、母さんがなぜか捨てられず、実は今も持っている。あっという間にぐんぐん大きくなり成長していく君の抜け殻みたいに思っているのかもしれない。気持ち悪いかもしれないけど宝物だ。

 

君と私たち夫婦は、縁あってひとつ屋根の下で暮らすことになり、時には感情をぶつけ合うこともあったけど、私は君の父親になれて本当に良かったと思う。

 

君がウチで暮らした10年間は、サッカーでいうと練習グラウンドみたいなものかもしれない。たくさんぶつかり合いながら、人と人の間のルールや反則を学び、今君は本格的に人生という名のピッチに駆け出そうとしている。あのキラキラした目で、素直に、飾り気なく人と接すれば、きっとうまくいくと信じている。

 

20才になったら近況報告として一杯やろうじゃないか。

 

いつでも帰ってきてくれ。

 

父より